科学

社説:AI研究にノーベル賞 「新たな科学」印象づけた | 毎日新聞

2024-10-10

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新しい科学の形を印象づける受賞である。人工知能(AI)に関する研究がノーベル賞を受賞したことが、世間には大きな話題を呼んでいる。具体的には、物理学賞がAIの開発に寄与した米国とカナダの2人の研究者に授与された。

物理学賞では、脳が学ぶ工程をコンピューターで再現しAI開発に貢献した研究が評価された。大量のデータを解析し答えを出す「深層学習(ディープラーニング)」を実現した。自動運転など身近な分野に生かされている。

化学賞は、生生命活動を支えるための物質の構成解析や設計を可能にしたAI技術に光を当てた。開発したIT企業の社員が英語を持ち込まれた。このことまで数年間かかっていた作業を、わずか数分で完了できるようにした。

AIは、研究手法に変革をもたらした。瞬時に大量なデータを処理する能力で、長年の謎の解明に道を開いた。化学賞の選考委員会は「今後50年間の問題を解決した」と語った。

他にも、新素材の開発やブラックホールの研究にも活用されている。便利なツールとして利用価値はさらに高まるだろう。

研究体制にも変容を迫っている。特定分野の専門家だけではなく、IT分野の専門家との協調が国際競争を勝ち抜く上で不可欠となる。

日本ではこうした人材が慢性的に不足しており、育成が急務だ。

AIの負の側面にも目を向けなければならない。たんぱく質を自動設計できるようになれば、自然界に存在しないような有害な物質を人為的に作り出すことが可能になるかもしれない。ネット交流サービス(SNS)ではAIで作られた偽情報が蔓延し、社会を混乱させている。

物理学賞に決まったトロント大学の教授は「AIが人間より優ることはなく、手に負えなくなれば強大になる」と語っている。

原子力がエネルギー源にも兵器にも使われるように、科学技術には常に二面性がある。

人類にはその暴走を許さないための英知が求められている。高い倫理性を持ち、リスクを低減するのは科学者の責務だ。