
最新研究で判明!「ASD」の人の脳で起きている「現象」との意外な共通点(内容:視点)
2025-04-01
著者: 健二
脳内のセロトニン量が減少していた
前回の研究で、"興奮性と抑制性の神経回路のバランスが、ASDなど発達障害や精神病の一因である"ということをご紹介しました。神経回路の活動を促すのが興奮性神経細胞、活動を抑えるのが抑制性神経細胞です。
ASDのモデルマウスでは、抑制性神経細胞の量が減少していたのですが、それはなぜでしょうか。ASDモデルマウスの脳の活動を調べると、神経細胞の活動が最も低下していました。そこには、セロトニンをつくる神経細胞が集まっていて、脳の広い範囲にセロトニンを放出しています(「セロトニンを脳の広範囲に放出する神経の活動」という図参照)。
ASDモデルマウスでは、生後間もない時期から抑制細胞の活動が低下し、脳全体でセロトニンの量が減少しています。セロトニンは、神経回路の活動を抑制したり促進したりする神経伝達物質であり、気分や記憶、睡眠、自覚などの脳機能に関わっています。また、脳の発達期には、神経の過剰な結合を減少させる役割もあり、特にASDの発達期には、神経回路のバランスを保つために重要です。
研究から見えてきた「感情過敏」の原因
私たちは、ASDモデルマウスの脳の発達期にセロトニン量を増やすことで、体性感覚の抑制性神経細胞の減少による感情過敏が改善するのではないかと予測しました。
そこで、誕生直後の3日目から21日目の離乳期まで、セロトニンを強める抗うつ薬(SSRI選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を投与しました。すると、抑制細胞の活動が高まり、脳全体のセロトニン量が増加しました。それにより、体性感覚の抑制性神経細胞の減少も改善され、感情過敏が起こりにくくなる可能性を示しています。
「感情過敏」と「コミュニケーション障害」に因果関係はあるか
そこで、ASD発達期のセロトニン量の減少による感情過敏と、社会性・コミュニケーション障害というASDの特徴には因果関係があるのではないか。特に、マウスは、ばかりのマウスに興味を持ちやすい社会性の特性を示すのに対し、ASDモデルマウスは近づきにくいという観察が見られました。
このように、ついついマウスは興味を持つのですが、ASDモデルマウスは近づくことができないといった不思議な行動が観察されました。育成環境も関与している可能性があるため、今後の研究に期待が寄せられます。