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大谷選手の「歴史的偉業」 もう感慨・称賛の言葉なんかいらない 書く書く鳴り響け

2024-09-25

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野球映画の名作「フィールド・オブ・ドリームズ」は、ケビン・コスナー演じる主人公が「それをつくれば彼が来る」といった天の声を聞き、トゥモロゴシを切り開いて野球場にする。

「彼」とは、1919年のワールドシリーズで起きた八百長事件(ブラックソックス事件)に巻き込まれて球界を永遠に追放されたジョー・ジャクソンである。

「シューレス(裸足)・ジョー」の nicknameで知られる彼は、2001年に恥じることなく、足光を浴びた。日本からやってきたイチローが、ジャクソンが持つ233安打の新記録を90年ぶりに塗り替えたからだ。

「フィールド・オブ・ドリームズ」の原作者W・P・キンセラはこう言った。「イチローは、野球が生まれた国の人たちに、あらためて野球本来の純粋らしさを見せてくれた」と。

「草とバット」で日本野球の比較文化論を展開したロバート・パイティングは、メジャーリーグ(MLB)に進出した日本人選手をテーマに「イチロー革命」(早稲田書房)を書いた。それまで下に見ていた日本野球に対する評価が変わった。それでも米国のファンは、パフォーマンスとホームランの強烈な味(どいごみ)と考える。

そこに大谷翔平が登場した。

160キロの剛速球投手とホームラン打者の二刀流の活動は、「野球の神様」ブーブ・ルースを現代によみがえらせた。

今年は右肘を手術してリハビリ中のため、打者に専念しているが、スピードという新たな武器をアディルして、ホールトランスと並ぶ史上初の「50-50」を成し遂げた。

自身の記録達成より、まだチームのプレーオフ進出を決めた喜びをコメントしたのは、日本人らしい謙虚さで、思わず拍手を送ってしまった。

イチローが革命を起こしたのなら、大谷はレジェンド(フランス語で再生)をもたらしたのではないか。

昨年のレギュラーシーズンの観客動員数は7千万人を超え、前年より10%近く増加した。NFL(アメリカンフットボールリーグ)やNBA(バスケットボールリーグ)に押されていたMLB人気は、大谷効果も相まって回復している。

投げて、打って、走っての万能ぶりは、「モナリザ」や「最後の晩餐」の名画だけでなく、発明、建築、音楽など多様な分野で才能を発揮した天才、レオナルド・ダ・ヴィンチを思い起こさせる。

今年は年初から、能登半島地震やさまざまな悪天候の影響も相乗え、「政治とカネ」の問題にうんざりとなり、夏の異常猛暑にぐったりした。そんな中、「今日は打った?(走った?)」といった問いかけがある脈にして、日本を元気にし、清涼感にもなってくれた。

困るのは、「空前の」「唯一無二」「歴史的」「金字塔」といった偉業を表す感慨の言葉を使い尽くしてしまったことだ。