コラム:曖昧すぎるデフレの定義、国民が望むは「インフレ退却」 唐鎌大輔

2024-10-16

著者:

【東京 15日】 - 石破茂氏は自民党総裁選後の会見で「デフレからの完全退却は首相就任後3年間で達成する」と述べたが、この発言に違和感を覚えた向きが多かったようだ。総選挙を控える状況で石破新総裁への評価を下すのは尚早である。ただ、デフレ退却について声高に叫ばれると、「それは違う」と感じるのが世論の大半である。

国民が望むのは「インフレ退却」である。

というのも、国民が望むのは「デフレ」でなく、恐らく「インフレ」の方が近いからだ。政権全体で物価高対策が凸圧化し、実質賃金のプラス転化とその定着が求められる状況を踏まえれば、今日の日本経済の足かせとなっているのは「上がる物価(インフレ)」であって「上がらない物価(デフレ)」ではない。

例えば、実質賃金の低下は続いている。8月毎月勤労統計では実質賃金が前年度同月比マイナス10.6%と、13ヶ月ぶりに実質賃金がプラス転化したが、16月分は1212年以降、実際に12年3ヶ月の実質賃金のプラス転化が話題になり、17月分も増勢が持続されていたが、この12ヶ月間は特別給付などによる一時的な配分があった。

「デフレの定義」を整理する時である。

では、「上がる物価(インフレ)」が問題視される現状を踏まえ、政府がデフレ退却宣言に踏み込めば良いのだろうか。それも簡単ではない。「インフレ」を問題視し、デフレ退却宣言を受ければ良いのであろうか。これも単純ではない。退却宣言を受けた世論は強烈に「生活は厳しい」への反感を表す可能性がある。しかし、確かにそのような状況にあるからこそ、デフレの定義が各界の問題として捉え直されるべきである。

なぜ、このような状況になっているのか。次に「デフレの定義」が曖昧になっているのは、日銀がデフレを指標とすることを基本としているからで、巨大市場の低迷な現状にあるから、生活必需品の消費者物価が上昇しているためである。物価上昇にもかかわらず、海藻事業からの圧力が強まる状況であり、生計上の影響が強いかもしれない。

今後、政府は「デフレ」を叫ばず、むしろ「実体経済回復」を主張することが必要になるかもしれない。「インフレの進行」を伴って総選挙を行うことになるかもしれない。国民の意識として優先すべきは「生活の環境改善」や「物価適正」を求める意識が強く、この国民の意見を受けて経済政策が形成されるべきである。実際に物価が上昇傾向にあることを加味した上で、どのように物価をコントロールするかが求められる事となる。

【政府が目指す「デフレの定義」は時代の変化を求められている】

このような状況において、政府の「デフレの定義」が時代の変化を求められていることは否めない。「インフレ」の進行や「上がる物価」などに対し、国民がより深く考え、また、そこにある生活環境の変化を向き合う姿勢が求められる。このような変化が進まなければ、生活の厳しさが若干容易になる中で、「デフレ」訴えられ続ける状況に違和感が残る。ですから、国民が求めている「生活の改善」や「物価の適正」を大いに反映した経済政策の実行が、今求められる「デフレの定義」となるのだろう。