新型コロナで急増した「山形系インフルエンザ」とは?
2024-11-22
著者: 桜
インフルエンザの流行は11月上旬に早くも全国的な流行期に突入した。街や電車の中でもマスク姿の人が増えた。
新型コロナウイルスが影響を与える中、インフルエンザの感受性は減少していた。しかし、世界的な移動制限やロックダウン(都市封鎖)、ソーシャルディスタンス(社会的距離)、マスク着用など新型コロナ対策がインフルエンザの感受性にも影響を及ぼしていると考えられている。日本の3密回避の効果もあっただろう。
その後、再び流行が戻ってきたが、ひとつ、変異が起きているのを念頭に置いてほしい。
インフルエンザウイルスの一つの系統が姿を消してしまったのだ。
これまで4種類のワクチン
インフルエンザウイルスでは大きな流行を起こすのがA型とB型だ。A型には複数の亜型(サブタイプ)があり、B型にはピクトリアル系統と山形系統の2系統がある。
新型コロナのパンデミック(世界的大流行)前に流行していたのは2009年にパンデミックを起こしたウイルスの子孫であるA(H1N1)型と1968年に流行したウイルスの子孫であるA(H3N2)型。それにB型の2系統だった。
ワクチンもこれら4種類を含め4種のワクチンを接種していた。
ところが、2020年3月以降、世界中で「B/山形系統」のインフルエンザウイルスの感受がみられず、突発してしまった可能性がある。
この状況を受け、WHO(世界保健機関)は今シーズンのワクチンからB/山形系統をはずし、3価のワクチンとするよう推奨している。
これは、インフルエンザの傾向が大きく変化し、流行の元となるウイルスの系統に影響を与える新たな現象を示唆しているかもしれない。
中国復旦大学や英国オックスフォード大学などの研究チームは、新型コロナに対する感染症の動向などに加え、その他にも変化したウイルスが存在することを確認し、11月に学術論文「サイエンス」を公表している。
研究チームはパンドミックの前・最中・後の3期間に分けて、腺ウイルスやコロナウイルス、国際的な旅行のデータなどを分析した。
その結果、航空機による世界の移動はインフルエンザエンザ保持の重要な要因であり、行動制限が強かったパンデミック前半(2020年4月から21年3月)では、感染率が95%以上低下していたという。
しかし、南アジアではA型インフルエンザの感受が、西アジアでは「B/ピクトリアル系統」の感受が、パンデミック期も継続されていた。いずれも行動制限が比較的緩かった地域である。
一方で、感受が続かずに姿を消したのがB/山形系統で、考えられる理由は、人の行動の急激な変化に伴い、17~18年に始まったB/山形系統の大規模な流行によって免疫を持つ人が多かったためではないかと言われている。
人々の行動の変化が消失させた?
それにしても、人々の行動の変化がウイルスの一つの系統を消失させたのであれば、驚きである。米国の専門家も「記録に残る初の事例」と述べている。
WHOの報告を受け、米国や欧州は今シーズンのインフルエンザワクチンに対して3価を推奨している。
一方、日本は国内のワクチン製造販売業者3社からの聞き取りをもとに、今シーズンの不活化ワクチンは4価のまま(ただし、今年から接種が始まった弱毒性ワクチンは3価)。ワクチン社は4価か3価にするためには時間がかなりかかるため、来シーズン以降、3価への変更が検討される。
ちなみに、B/山形系統は1998年に山形県で分離されたウイルスの解析でピクトリアル系統と異なることが判明したためそう呼ばれている。世界の専門家の間では「有名ウイルス」として、いまだにその存在が注目されている。
このような変化は今後も続くかもしれないが、ウイルスの進化と人々の行動変化との関連性を明確にする研究が今後のカギとなる。