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福島第一原発 概念試験的な取り出し “中断” なぜ長期化? | NHK

2024-10-10

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福島第一原発で初めてとなる、概念的な取り出しの試みは、一度、格納容器の中まで入れた取り出し用の装置を引き戻し、いわば「戻り」の状態に戻っています。

現状について、かつて大手原発メーカーで原子力部門の技術者長を務め、いまだ日本原子力学会の福島第一原発調査委員会の委員長を務める菅野広さんは、今回の問題の背景を掘り下げて、東京電力として廃炉全体のプロジェクトマネジメントができているのか、改めて見直す必要があると指摘しています。

Q.今回のトラブルをどう見ていますか?

A. 菅野委員長

「トラブルの結果として起きていること自体はそれほど重大な問題ではない。放射性物質が漏れたとか作業員に被害が出たとかではない。しかし、トラブルが起きるまでの過程、東京電力の取り組みの中に、そういった構造的な問題点が出ているので、それを改善しなければ、今後また同じような問題が出てくる可能性がある。8月に装置の不具合が出て、その後、今回カメラの不具合、どちらも事前に想定して備えられていなかったことが問題。脱炭素に向けた観点からも、こうした新しい取り出し手法を開発する際に、手順や事前の確認をしっかりと整えることが重要。」

Q.現状の環境とは?

A. 菅野委員長

「放射線の影響下という問題。中性子が飛んだりする環境だから、そういう厳しい環境で構造がどう動くのか、どういう問題が発生するのか、具体的に模擬した試験をやっておかないといけない。それをやった上でなければ、いけない。さらに言えば、福島第一原発の格納容器の中は、水が抜けるだとか、そういった問題があるわけで、温度だとか湿度だとか、そういったことを踏まえた具体的な試験を行わないと、本当にできるかどうかというところまで、踏み込んではいけない。」

Q.東京電力は、カメラの目が示している放射線のメカニズムなどの数値は確認し、作業現場はその範囲内だと認識しているとの説明ですが、それでは足りないのでは?

A. 菅野委員長

「汎用的な環境がどうかというのは極めて重要で、特に放射線の影響がある環境は非常に不安定。カメラのメカニズムそのものにあたる問題ではない。福島第一原発でも、例えば格納容器内を動かすロボットなども使いながら、第一原発においても、そういったことを前提に進めなければならない。しかし、それを考える際には、あくまで現場の状況を詳細に把握した上で、問題がどれぐらい深刻なのかという意識を持ちつつ、プロジェクトを進めていく必要がある。」

今回のトラブルは、単に技術的な失敗だけではなく、廃炉作業全体における管理体制や事前の準備不足が浮き彫りになった事例といえるでしょう。福島第一原発の廃炉は、国の未来にとって重要な課題であるため、再発防止とともに、持続可能なエネルギー政策の実現に向けた新たな知見を得ることも求められています。今後、さらなる技術革新と適切なマネジメントが期待されます。