健康

HIV予防薬「トルバダ」普及前予防(PrEP)が認知…感染者減少に期待も、費用が普及の壁に

2024-10-08

著者: 裕美

アメリカ・サイエンスの抗HIV薬「トルバダ」が、8月に国内初となる普及前予防(PrEP)の適応を取得しました。適切に使用すれば99%以上の確率で感染を防ぐことができる一方で、予防医療のため保険適用されず、専門家や感染者団体は「何らかの公的な助成が必要」と述べています。

米国ではPrEP(=Pre-exposure prophylaxis、プレップ)が、海外では10年以上前から普及が進んでいます。トルバダの場合、2012年には米国で初めてPrEPの適応が認められ、16年には欧州でも適応を取得。その後、中国、台湾、韓国などアジア諸国でも承認されています。WHO(世界保健機関)も2015年のガイドラインで、HIV感染リスクの高い人にPrEPを推奨しています。

一方、日本では、18歳と21歳に対する日本エイズ学会の予防への適応に関する要望書を厚生労働省に提出。23年8月に同省の「未感染薬・適応外薬調査会」で医療上の必要性が高いと判断され、国がクリニックに開発を要請しました。これを受けてクリニックは今月中に公知申請を実施。

日本国内の新規HIV感染者・エイズ患者の報告数は16年から22年にかけて減少が続いていましたが、23年は7年振りに増加し、960人(感染者669人・患者291人)となりました。同団体は、新型コロナウイルス感染症の影響で減少していた調査件数が回復したことが背景にあると見ています。

"治療とPrEP、新規感染者への対策"

PrEPの適応では、1回1錠を毎日投与。遵守性が高ければ、HIV感染率が99%以上で防ぐことができます。

HIVに感染しても、抗HIV薬を用いれば血中のウイルス量が検出限界未満になれば他人に感染させることはありません(Undetectable equals untransmittable、U=U)。

クリニックでの説明会で話した国立感染症研究センターの医師は、「治療と予防は新規感染者ゼロへの指針」と述べました。

ただし、PrEPだけでHIV感染を完全に防ぐことはできません。専門家は「検査など必要で、使用することは重要」と語り、治療とパートナーシップで行うことが必要と言及しました。重要な予防手段(コンドームの使用やパートナーの感染状況の把握など)としての運用が求められています。

日本国内ではこれまでPrEPが認可されていなかったため、希望する人は薬剤を個人輸入したり、輸入したクリニックで処方されたりする必要がありました。調査によると、PrEPの利用者は18歳調査の2.2%から8.8%に増加。利用者の割合が国内外のインターネットサイトで薬剤を入手している人数の半数は必要な検査を定期的に受けていません。

厚労省は「PrEPが認可された最も大きな意義は、情報を拡充して伝達できることだ。地域の保健所やクリニックでも正しい情報を提供できるようになり、情報格差を解消することができる」と述べました。

"継続可能な費用で割れることが重要"

一方、課題となるのは費用です。PrEPは予防目的で、公的医療保険は適用されません。トルバダの薬価は1錠20442.40円。保険適用外のため実際の価格は医療機関が設定しますが、仮にこの価格で購入すると7万円以上の負担となります。厚労省は「継続可能な費用で割れることが重要だ。希望者が手に取りやすいようにすることが必要」と指摘しました。

前出の厚労省研究班のアンケート調査によると、「PrEPの薬が日本で入手可能になったら、あなたは使いたいですか」という質問に68.5%が「使いたい」、また「2500円未満」となった6000人のうち66.4%が「薬を使用してみたい」と回答しました。反対に「PrEPを使用するには1ヶ月でおおよそいくらまでなら払えるか」という問いには33.1%が「2500円以上」、25.5%が「2500円未満」と答えています。

HIV陽性者に対する支援活動を行う認定NPO法人「ひょくりんえあしらたかき」は、PrEPの適応について、「せめて希望する人がPrEPという予防策を選べるようになるためにも、皆が利用しやすい価格にすることが重要」と訴えました。価格が高すぎると、オンラインで薬を入手しなければならなくなる人が増え、自己のHIV感染を知らないまま自己判断でPrEPを行うことがリスクを伴う可能性があることを強調しています。

これからも、PrEPの普及が期待されていますが、効果的な啓発を進め、全国規模で対策を講じることが求められています。